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イデア教養文庫04

こちらで実際の書籍の本文をそのまま紹介していきます。

はじめに

 同居している母の介護をするようになってから、8年が経過しようとしている。男ばかりの3人兄弟の長男であり、たまたま自分自身のぐあいが悪くて家で休養をしていたために、母の面倒を見ることになったのである。痴呆になってうるさくなった母の相手をしていた父が急に衰え始めた。それを助けるために、私が母の相手を始めたのがきっかけであった。
私が、「母の介護をしよう」と思ったことは一度もないのに、どういうわけか母からは頼りにされてしまうことになった。父が亡くなってからは、私は父の代わりになっているようだ。私も、父と同じように、うるさい母のために身体がどんどん弱っているような気がする。そのうち私も、介護される側になりそうだ。最近では、私自信にいろいろな病気が見つかっている。母がいるとゆっくり寝られない生活になっているし、母がいなくても夜がなかなか寝られない状態になってしまった。
介護については、経験のない人でないと、そのつらさなどが分からないと思う。介護保険の制度が始まっているが、実際に利用している立場からは、もっともっと改善して欲しいと思う点がいっぱいある。
 本書では、介護の実態を多くの人に知ってもらうために、私が母に対して行ってきた介護について紹介しておきたいと思う。
 実際にお読みになると、「これが介護なの?」と思われるくらい特殊な例になっていると思う。最初に書いたように、私は「母の介護をしよう」と、自分で思ったことは一度もないからである。
私が小さいころは、母は仕事を忙しくしていて、私の相手をしてくれなかった。だから私は母が嫌いだった。
母が暇になったら、私が忙しくしていて、母の相手ができなかった。たぶん、母も私のことをよく思っていなかったに違いない。
二人とも同時にぐあいが悪くなったら、「やっぱり親子だったのだ」という感じで、お互いに共通点をようやく見つけるようになって、一緒にいる機会を楽しく過ごしているといいうのが実態なのである。
その事情を知らない方からは、「偉いですね、親孝行ですね」と言われるが、恥ずかしいことに母が痴呆になって初めて、母のことを良くわかるようになっただけのことなのである。
知れば知るほど、母は私に良く似ていると面白がっているから、介護の疲れはそれほど感じないでいられるようだ。実際は、私が母に似たのだろうが。
現在の介護保険制度は、施設を利用する介護に重点がおかれているような気がする。私のように自宅で介護する場合は、介護するほうが希望する行為が、保険の対象にならないという場合が多い。
私の経験では、本書で紹介する母のように、旅行に連れていったり、多くの人に接するようにさせることが、「今までの生活」の延長を続けさせることになり、本人のためになると思う。その結果、痴呆も遅らせることができると考えている。たぶん、それは絶対に間違ってはいないと思う。つまり、今の介護保険の制度だったら、使わないほうが、本人のためになる場合だってあると思う。
本書で紹介した例は、母と私だからできた特殊なケースと思われるかもしれない。しかし、認知症の人を抱えているどの家庭においても、それぞれ同じような特殊な介護があっても不思議はないと思う。
マニュアル通りの介護というものは楽かもしれないが、本当は介護されるほうにとって嬉しくないのではないか。母はそう私に教えているような気がする。
私の介護は終わったわけではない。誰もが無理なく介護が続けられる世の中になるように、これからも私の経験を発信続けていきたいと思う。
母の名前は高橋文(たかはしふみ)。私より絶対に長生きすると思う。

目次

目次

第1部 母が痴呆になった                   7

計算ができなくなった母                     8

商売熱心だった母                        13

お金を気にしだした母                     18

急に元気がなくなった父                   21

第2部 母と一緒の毎日に                  23

父と喧嘩し外に出る母                     24
母を病院に                              27
病院から帰ると父は                       30
車椅子を父に                            32
デイサービスに母を                       36
父が他人に                              38
家に帰ろう                               41
母と朝から散歩の毎日に                   44
ニコニコしながら私の後を追う母            46
なるべく混んでいる店で食事                49
母を会議に連れていくことに                51
母を北海道のスキー場に                   53
両親介護の状態に                        57
母が競歩で日本新記録                    61
父が元気を取り戻し介護ベッドで筋トレ        66
母をショートステイに                       68
母を競馬場に                            73
母を佐渡に                              76
母を福島に                              80
遠くの病院に父を見舞いに                 83
母を野沢温泉のスキー場に                 88
満員電車に乗ってデイサービスに            93
佐渡でビオトープ作り                      96

第3部 母は本当に病気なの                99

介護をあまり苦にしない理由               100
創造的な介護とは                        102
母親度チェック                          105
数の数え方のチェック                     108
記憶力のチェック                        111
言葉のチェック                          113
動作のチェック                          116
私の身体もチェックできた                 119
大事なことを母から教わった               122
本当は書かないほうが良いのかも           126